ブログの管理者は「特定電気通信役務提供者」です

はじめに

スリードしないでおいてもらいたいのはこの記事はあくまでも表題の件についての争点の整理であり通信の秘密に関する争点はここでは取り上げません。それについてはまたこの後に。

ことのおこり

ここ数日の通信の秘密関連の議論の際の一つの争点に、コメント欄を有するブログ主がプロバイダ責任制限法で定義される「特定電気通信役務提供者」なのか?というのがありました。

特定電気通信と通信の秘密とはてなアイドルと - へぼへぼプログラマ日記
ブログ管理者が、コメント者のIPを晒す行為について - 『書物の迷宮』予告篇
http://d.hatena.ne.jp/steam_heart/20080710/p3

定義

「特定電気通信役務提供者」

特定電気通信役務提供者 特定電気通信設備を用いて他人の通信を媒介し、その他特定電気通信設備を他人の通信の用に供する者をいう。
http://law.e-gov.go.jp/htmldata/H13/H13HO137.html

「特定電気通信設備

特定電気通信設備 特定電気通信の用に供される電気通信設備電気通信事業法第二条第二号 に規定する電気通信設備をいう。)をいう。
http://law.e-gov.go.jp/htmldata/H13/H13HO137.html

電気通信設備

二  電気通信設備 電気通信を行うための機械、器具、線路その他の電気的設備をいう。
http://law.e-gov.go.jp/htmldata/S59/S59HO086.html

争点

「特定電気通信設備」が物理的な設備のみなのか、物理的な設備上のデータ(掲示板やブログ)も範疇内なのか。

私の解釈

そもそも電気通信設備の定義には「その他の電気的設備」というような曖昧なものが含まれており、かなり柔軟に解釈できると考えています。
私は現代のように他人の通信を媒介するものが物理的な設備を持っているものだけにとどまらずレンタル掲示板やブログといったものを管理するものがいることを踏まえ現代的に解釈するならばそれは電気通信設備と考えてよいと思っています。

判例

で、この件につき、根拠となる重要な判例を見つけたので紹介しておきます。ちなみに判決がでたのはかなり最近というか2か月ぐらいしかたっていません。

平成19(ワ)6473損害賠償請求事件(pdf)
これは、レンタル掲示板サイトにおいて掲示板を開設した被告に対し、その掲示板内に誹謗中傷を書かれた原告が削除義務を怠ったとして損害賠償請求を求め、それが認められたという事件です。で、今回その原告に対して裁判所が判決文中に

(1) 前提事実(1)イ,(2)によれば,本件掲示板が「特定電気通信」(プロバイダ責任法2条1号)に該当し,被告が「特定電気通信役務提供者」(同条3号)に該当すると認められる。

との判断を示しています。前提事実の部分も引用しておくと

前提事実(1)イ

イ被告は,平成18年8月当時,インターネット上の「Bレンタル掲示板:C」において,「Aちゃんねる」,「Dちゃんねる」,「Eちゃんねる」等の名称でインターネット上の掲示板(以下「Aちゃんねる」を「本件掲示板」という。)を設置し,管理運営していた者である。

前提事実(2)

(2) 本件掲示板は,不特定多数の者が,自由に,匿名で書き込むことができるものであるが,被告は,本件掲示板への書き込み及びその削除についてのルールを定め,「お約束」の表題の下に,?実名の書き込みはいけない,?一般常識から外れたことは書き込まない,?削除依頼時はスレッドのアドレスとレス番号を明記する,?第三者から見て特定可能な情報でない場合は削除対象外とする,などのルールを掲記している。また,本件掲示板には,管理人への連絡手段が表示されており,書き込みの削除は,利用者からの削除依頼により,管理人が対象の削除基準該当性を判断した上で,管理人により削除される形態となっている。

以上のように物理的な設備を管理していない被告を「特定電気通信役務提供者」と認めています。まぁこの裁判においては「特定電気通信役務提供者」かどうかは争点にはなっていないようなので判事が真剣に検討したのかは少し疑問の余地がありますが。とはいってもこれを覆すには新たな判例が必要ではないでしょうか。

まとめ

コメント欄を有するブログ主やレンタル掲示板の管理者やその他特定通信の媒介となっているサイトを運営している人はほぼ「特定電気通信役務提供者」とみてよいと思います。

おまけ(ブログ管理者さんやレンタル掲示板運営者さんへ)

ブログをやっている皆さん、「特定電気通信役務提供者」にあたるからといってそんなに心配しないでください。該当するとどんなメリットデメリットがあるのかというのを以下に記しておきます。あ、一応注意ですがプロバイダ責任制限法の(法律の専門家でもない私の)個人的まとめなので参考程度にしてください。

開示請求権を自己の権利を侵害された者にもたれる(デメリット?)

それに、これが日記書いている人が対象だったら、みんなblogやってられませんよ。発生する義務は見ている?
開示請求に答えなきゃいけないんだけど。七日間で。
http://d.hatena.ne.jp/steam_heart/20080710/p3

といっている方もいますが、それは勘違いです。そんな義務は発生しません。条文のどこに書いてありますか?
基本的には「自己の権利を侵害された者」があなたに対しての開示請求権を持つということぐらいなもんです。その場合においても開示する義務はありません。ただし、開示しないことに重大な過失があればその限りではないので注意が必要です!

尚、権利を侵害したとされる情報の発信者の連絡先を知っている場合は開示するかどうかについて当該発信者の意見を聴かなければならないともされています。
まぁブログ主やレンタル掲示板管理者は普通発信者の連絡先なんか知らないよね。ただ会員制掲示板サイトとかをやっている人でメールアドレスなんかを知っている人は意見を聞く義務はありそうです。

損害賠償責任の制限(メリット)

まず、利用者の発言(など特定電気通信)の削除(など送信防止措置)を行った場合に発生した利用者の権利侵害(表現の自由の侵害等)についてある条件においては免責されます。詳しくは3条2項をみてください。
また、削除を行わなかった場合に発生した他人の権利の侵害についてもある条件において免責されます。詳しくは3条1項をどうぞ。